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第28話 盲目の子猫

 チロと名付けた子猫が天を見上げて何かを探しているようだった。目を患っていることは知っていたが、昨日まではご飯を美味しそうに食べて、元気に走り回っていた。もちろん、母猫のお乳もたらふく飲んでいるようで、このまま元気に育ってくれるものと思っていた。
 様子がおかしいと気づいたのは、朝のご飯をあげたときだった。いつもなら元気に走り寄ってくるはずのチロが部屋の片隅で身動きせずに座っていたのだ。幸いわたしは今日休日で、朝からチロの様子を窺がっていることができた。チロは典型的な猫の座りで腰をおろして、前脚で上体を支えていたが、見ている顔の方向がどこかおかしく、宙の1点を見つめて何かを探しているようだった。わたしはおかしいと思いながら、いつものように膝の上にチロをのせた。いつもなら少しじっとしていながらもすぐにわたしに抵抗して、手の中を掻い潜って逃げていくのだが、チロはそうしなかった。チロはできなかったのだ。両の瞼は膿によって塞がれて、何も見えなかったのだ。
 膝の上にチロをのせたときに気づいたのだが、チロは骨と皮だけになっていた。手足には筋肉らしきものは見当たらず、移動することが困難だったようである。昨日今日のことではないのに何故気づかなかったのかと自分を呪いながら、ご飯を口元に近づけても、水をふくんだ布を押し当ててもまるで反応はなかった。そっと、膝の上からおろして子猫たちの仲間に加えてみた。他の子猫たちは元気過ぎるほどに跳ね回っているのに、チロだけは仲間に加われなかった。チロを気遣っているのか他の子猫たちがチロにじゃれあってくるが、チロはやはり宙に何かを探しているように身動きしなかった。
 やがて、チロは動き出した。やっとの思いで歩いているらしく、のろのろと向かっていたのはいつもの遊び場の空の段ボール箱の中であった。中は暗くて狭いのだろうが、猫たちはこういう場所を好んで遊び場としている。しかし、チロがそこに向かったのは別な理由からではないかと想像した。猫は自分の死に様を他者に見せない習性があるらしく、チロは幼いながらも死に場所を選んだのだと思ったのだ。
 ところが、外が暗くなって母猫たちが戻ってくると、その中の1匹がチロを咥えて箱の中から引っ張り出したのだ。まるで、死ぬのは未だ早いと言っているようでお乳をチロに与えようとしていた。このとき気が付いたのだ。チロは嗅覚も失っているらしく、吸うべき乳首を探せないようなのだ。だからご飯も食べられないのだとわたしは一人合点したが、チロは自分の死期を悟り、お乳を拒絶しているのかもしれなかった。これをみかねたのか他の母猫たちも寄ってきて、目といわず全身を舐め始めた。母親たちはこれが唯一の治療法であると確信しているようで、チロは嬉しそうな顔をして今母猫の懐で寝入っている。子猫たちも母猫たちを真似ているのかチロに寄ってきては舐めて去っていく。明日もチロの姿があることを祈って、わたしも寝ることにしよう。

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